早朝から騒がしい夏の音。
蒸し上げられるような熱気に息苦しさすら感じて、レックスは胸元を掻きむしった。
洗面台の鏡の前、写る元々浅黒い肌は、ギラつく日差しに焼かれてより一層色を濃くしていた。
差し出した掌に水を掬ってバシャバシャと顔を濡らす。
火照った身体には、水道管を通ってきた温い水では物足りなかった。
滴り落ちる水が、頬の傷にそって流れる。嘗て、其処を通った赤い色の様に。
-お母さんと一緒に来てくれるわよね?
ブンブンと、水が飛び散るのも厭わずに顔を振る。
何もかもを振り払うように顔を振る。
鏡の中の自分は酷く滑稽な顔をしていた。
タオルで残った湿気を拭き取り、
洗面台の下に敷かれた足ふきマットを足で引きずり回して床に飛び散った水を拭き取る。
使ったタオルを首に掛けて、再び鏡に向き直って整髪剤を手に取り、何時も通り髪を掻き上げる。
ある程度形が出たら、赤いバンダナを定位置にセットして手を洗う。
ネットリした整髪剤が水道管をとってやってきた水に混ざって、また水道管に飲み込まれていく。
あの赤い色のようにネットリと、ネットリと。
水は、海から来て海へと帰る。
母なる海へと帰っていく。
オレは、ドコから来てドコへ帰ればいい。
母体を失ったオレは何処へ行けばいい。
鏡の前の自分は矢っ張り、滑稽な顔をしていた。
鏡面
磨かれた鏡の前では、全部丸見え。