夕方の路地裏。
煉瓦で覆われたこの通りは、街頭もろくに整備されておらず、まだ夕刻だと言うのに酷く薄暗く寒々しい。
他の通りと比べると、体感温度が2度程低い気がした。
其れでも、地中海。赤道に近いこの国はソーキが生まれ育ってきたアノ国よりかは暖かい。人も土地も。
食べ物にも産業にも恵まれ、人々は陽気で活発だ。マフィアの拠点地とは思えない程に。
対照的に、道端で何食わぬ顔をしながら寝そべる男達の目は酷く荒んでギラついている。
まるで、品物を見定めるようなそんな目に、ソーキは少し肩を竦めた。
いつもの自分も、彼等と同じ目をしているのかと思うと溜息すら出てこなかった。
ふと顔を上げると、高い煉瓦造りの建物の間から淡い赤と青が混ざった空が見えた。
夕焼けに焼かれた空と夜に冷やされる空が居り混ざって神秘的な情景を生み出している。
フゥと知らぬ間に小さく息を付いて、ソーキは暫くその空を見上げていた。
アノ国に居た時には、空はもっと大きな物で何物にも阻まれることなど無いと思っていた。
大人になれば、澄んだ空気を胸一杯に吸い込んで、
あの、無限の空を何処までも追い掛けられるのではないかと幻想を抱いていた。
だが、夢は夢。
幼い頃の夢は、あの夜の闇さえも焼き焦がす現実が全て飲み込んでいってしまった。
パチパチと赤い火花を飛ばしながら、夢も同胞も全て飲み込んでいってしまった。
闇をも焦がす現実という炎は、赤々と燃え滾り消えない復讐の炎へと姿を変えて、この心に巣くってしまった。
この炎もいつかは我が身に降りかかり、我が身を焼くのだろう。
だから、せめて今だけは明日の朝日と言う希望の欠片の為に生きていたい。
カツンッと足下に転がった煉瓦の欠片を蹴り上げて、ソーキは闇夜に紛れる路地裏から飛び出した。
焼ける炎