叔父甥SS第2弾。
この2人は取り敢えず日常に満足しているので割と書きやすい、かも知れない。
日常の1コマ、1コマを大事に生きているイメージです。
此処に他の叔父とか祖父が入るとギスギスしだすんだろうけどね←
相変わらずタイトルは残念ですorz
随分と遅くなってしまった。
上弦の月が、煉瓦造りの街の上にぽっかりと浮かんでいる。
街は暗く、街頭は数カ所切れかけていて、最後の灯火のようにチカチカと点滅を繰り返している。
急ぎ足で帰宅する、会社員と同様に羽織ったコートの前面を掴んで足早に路地を抜ける。
じっとりと張り付く様な夏の湿気が、体全体を覆っていた。
このコートも時期外れだな。
所々土埃と、解れが目立つ黒いロングコートを見て、レイモンドは苦笑する。
定位置から外れた帽子を被り直し、左手で押さえながら、走った。
漸く見えた自宅は門灯が灯っており、玄関ホールも明るい。
鍵を開けると生活の匂いが一気にやってきて、鼻腔を強く刺激する。
虫が入らないうちに、匂いが全て外に逃げ出してしまう前に、早々に扉を閉め、
コートを玄関に放り出すと、歩きながらマフラーと帽子をフックに引っかける。
ダイニングへ行く前に、一室の前で立ち止まって、軽くノックをして扉を薄く開ける。
規則的な呼吸の音と、ベットの上で丸くなる小さな身体を見つけて思わず、眉尻が下がった。
起こさないよう細心の注意を払って扉を閉め、ダイニングへ向かう。
電気を付けると、蛍光灯が、街の街頭と同じように点滅してから鈍く光った。
よくよく見ると、黒く変色している。
寿命が近いのだろう。
今度の休みは電気屋に行かなければ、と思いながら食卓に腰掛ける。
1人分の食事が綺麗に並べられ、ラップが掛けられており、涙腺が刺激される気がした。
耳にタコができる程言われ続けた為、
完全に習慣化した食前の手洗いをしっかりと行ってから、暖めた食事を口にする。
レパートリーも少なく、一度冷めたものを暖めた為少し落ちていたが、優しい味がした気がした。
あの子が来てから、何もかもが完全に変わった。
当たり前の事を、当たり前だと認識出来るようになった。
1人で暮らしている時は、食事と言っても暇な時に軽く飯を口にする程度だった為、
何時も心身共にギリギリだった。帰宅して、ろくに飯を食べていた記憶がない。
検査という検査に引っ掛かり、医者からも上司からも体を大切にしろと諭された。
何より、急いで家に帰る事が無かった。
自分1人だけ生かしていれば良いという状況は、随分と軽く、甘かった。
だが、今は違う。こうやって食事を作り、自分の帰宅を待ってくれている人が居る。
其れだけで、随分と人は頑張れるのだと言うことを、身をもって今経験している。
この状況を作ったあの人達に感謝しながら、
レイモンドは、自分のために作られた食事を噛み締めた。
幸せの味
次の休日は、あの子を連れて何処かへ行こう。